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浦和地方裁判所 平成9年(行ウ)22号 判決 1999年5月31日

埼玉県草加市弁天町一三四七番地三〇

原告

日本商事株式会社

右代表者代表取締役

中村定治

右訴訟代理人弁護士

平野耕司

山崎哲

渡邊清朗

海老原覚

埼玉県川口市青木二丁目二番一七号

被告

川口税務署長 森晟

右指定代理人

大圖明

木上律子

谷脇輝夫

増村高志

今泉憲三

齋藤隆敏

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和六四年一月一日から平成元年五月三一日までの事業年度について平成六年一二月二六日付けで被告がした法人税の更正処分のうち、所得金額二〇七三万三五七五円、課税土地譲渡利益金額一七七九万七〇〇〇円、法人税額一二八七万八七〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、不動産の売買、交換、賃借、管理及びその代理媒介を主たる業とする会社である。

2  原告の昭和六四年一月一日から平成元年五月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、原告がした確定申告、これに対して被告がした更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と合わせて「本件更正処分等」という。)、原告がした審査請求、これに対して国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別表一記載のとおりである。

3  しかし、被告がした本件更正処分のうち、原告の確定申告に係る所得金額、課税土地譲渡利益金額を超える部分は、原告の所得、課税土地譲渡利益を過大に認定したものであるから違法であり、また、本件更正処分を前提としてされた本件賦課決定処分も、違法である。

4  よって、原告は、被告に対し、本件更正処分等の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2は、認めるが、同3の主張は、争う。

三  被告の主張

1  本件更正処分等の対象取引の概要

(一) 原告は、有限会社木元鉄工(以下「木元鉄工」という。)との間で、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)に倉庫(以下「本件建物」といい、本件土地と合わせて「本件土地建物」という。)を一億〇三七四万円で建築することを内容とする昭和六三年一二月二八日付けの民間建設工事請負契約書(以下「本件請負契約書」という。)を交わし、株式会社ヤマサ商事(以下「ヤマサ商事」という。)を仲介として、合資会社共立堂(以下「共立堂」という。)との間で、本件建物を一億七〇二九万円で売却することを内容とする右同日付けの建物売買契約書(以下「本件建物売買契約書」という。)を交わした。

また、原告は、平成元年二月二二日、清水胤正及び福原英子(以下「清水胤正ら」という。)から本件土地を二億九五九〇万〇七〇〇円で取得し、ヤマサ商事を仲介として、共立堂との間で、本件土地を二億九六七五万円で売却することを内容とする平成元年二月二八日付けの土地売買契約書(以下「本件土地売買契約書」という。)を交わした。ヤマサ商事と共立堂との間で作成された右同日付け仲介手数料契約書(以下「本件仲介手数料契約書」という。)には、共立堂が原告と契約した本件土地建物に係る仲介手数料を一〇八九万九〇〇〇円とする旨記載されている。

共立堂は、共立食品工業株式会社(以下「共立食品工業」という。)に本件土地を利用させる目的で、原告から本件土地を取得したものであり、同年一〇月二日、共立食品工業との間で、建築中の本件建物の完成について委譲することを内容とする同意書(以下「本件同意書」という。)及び本件土地を二億九六七五万円で譲渡する旨の土地売買契約書を交わし、本件土地を譲渡した。

(二) 共立堂は、平成元年二月二八日、原告に対し、本件土地の代金の一部である一〇〇〇万円を手付金として支払い、さらに、同年四月二〇日、原告に対し、本件土地の代金の残額として二億八六七五万円を、本件建物の代金の一部(中間金)として六六五五万円(以下「本件金員」という。)をそれぞれ支払った。原告は、本件建物の引渡が未了であったことから、本件金員を前受金として経理処理した。

(三) 本件土地については、平成元年四月一〇日受付で同年三月二二日売買を原因として清水胤正らから原告に、その後、同年四月二一日受付で同年四月二〇日売買を原因として原告から共立堂に、さらに、同年一〇月二七日受付で同年一〇月二日売買を原因として共立堂から共立食品工業に、それぞれ所有権移転登記がされている。

また、本件建物については、その建築を木元鉄工が請け負い、同年六月二一日付けで建築確認がされて着工し、同年一〇月三一日、工事完了検査を受け、同年一一月二一日付けで建築確認検査済証の交付を受け、平成二年六月一一日受付で平成元年一一月三〇日新築を原因として、所有者を共立食品工業とする所有権保存登記がされた。

(四) 原告は、平成元年七月二四日、本件土地売買契約書記載の譲渡金額二億九六七五万円を基に本件事業年度の所得金額を計算して確定申告をした。

2  しかし、本件建物の注文者は、原告ではなく、共立堂が木元鉄工に請け負わせて行ったものであるから、原告が本件建物を共立堂に譲渡することはあり得ず、共立堂が原告に対し本件建物の中間金の名目で支払った本件金員六六五五万円は、本件土地の売買代金の一部である。

3  本件更正処分の適法性

(一) 本件事業年度の所得金額

原告の本件事業年度の所得金額は、次の(1)、(2)の合計金額八七二八万三五七五円である。

(1) 申告所得金額 二〇七三万三五七五円

原告が提出した申告書記載の所得金額である。

(2) 土地売上計上もれ 六六五五万円

原告が本件建物の中間金として受領し前受金として経理している金額であり、本件土地の譲渡代金に加算した金額である。

(二) 本件事業年度の土地譲渡利益金額

原告の本件事業年度の土地譲渡利益金額は、次の(1)、(2)の合計八五八三万一七三六円である(別表二参照)。

(1) 本件土地に係る譲渡利益金額 四九八一万〇七四四円

本件土地に係る譲渡利益金額は、次のaからb及びcの合計額を控除した金額である。

a 本件土地の譲渡に係る収益の額 三億六三三〇万円

本件土地売買契約書に記載された売買代金二億九六七五万円に、本件土地の譲渡に係る譲渡代金の一部である本件建物に係る前受金として経理された六六五五万円を加算した金額である。

b 本件土地の譲渡に係る原価の額 三億〇三三五万七〇〇〇円

本件土地の譲渡に係る原価の額は、本件土地の譲渡直前の帳簿価額(平成三年政令第八八号による改正前の租税特別措置法施行令(以下「平成三年改正前措置法施行令」という。)三八条の四第五項一号イ)、すなわち譲渡直前における本件土地の取得価額に算入すべき金額であるが、右金額は、原告が清水胤正らから本件土地を取得した際の購入価額二億九五九〇万七〇〇〇円並びに本件土地に係る造成工事として杉本興業株式会社に対して支払った六〇〇万円及び本件土地に係る登記料一六五万円の合計金額であり、確定申告に係る原価の額と同額である。

c 本件土地の譲渡のために直接又は間接に要した経費の額 九九三万二二五六円

本件土地の保有のために要した負債の利子の額と本件土地の譲渡のために要した販売費及び一般管理費の合計額であり、原告が当初確定申告において行っている配賦計算を基に計算した次のア、イの合計金額である。

ア 本件土地の保有のために要した負債の利子の額は、いわゆる概算法により本件土地の譲渡に係る原価の額三億〇三五五万七〇〇〇円に保有期間である二月(取得年月日平成元年二月二二日、譲渡年月日平成元年四月二〇日)を乗じ、これを一二で除した上で一〇〇分の六の割合を乗じて計算した三〇三万五五六九円である(平成三年改正前措置法施行令三八条の四第六項一号及び同条七項)。

イ 本件土地の譲渡のために要した販売費及び一般管理費の額は、原告が当初確定申告において行っている販売費及び一般管理費の配賦計算を基に(いわゆる実額配賦法)、販売費及び一般管理費から損金不算入額及び直接配賦とする支払手数料を控除した各土地に共通的に要した費用に本件土地に係る益金算入額六六五五円を加算した総売上金額のうち、原告が確定申告で採用した配賦基準により算定した本件土地に係る配賦金額二七八万五五七六円に本件土地に直接要した支払手数料四一一万一一一一円を加算すると、実績による販売費及び一般管理費は六八九万六六八七円となる(平成三年改正前措置法施行令三八条の四第八項及び三八条の五第四項)。

(2) 本件土地以外の土地に係る譲渡利益金額 三六〇二万〇九九二円

本件土地以外の土地に係る譲渡利益金額は、原告が確定申告で採用した配賦基準を基に、本件土地に係る益金算入額六六五五万円を加算した総売上金額及び土地売上金額をもって(1)と同様に算定した販売費及び一般管理費の配賦金額による金額である(別表二アないしカ参照)。

(三) 納付すべき法人税額 六一二三万九九〇〇円

原告の納付すべき法人税額は、次の(1)の所得金額に対する税額と(2)の土地譲渡利益金額に対する税額の合計額から、利子等の収入について既に源泉徴収されていた税額七六万八二四四円を控除した金額である(国税通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数切捨て)。

(1) 所得金額に対する税額 三六二五万八九〇〇円

原告の本件事業年度に係る所得金額は、前記三3(一)のとおり八七二八万三五七五円であるところ、それに対する税額は、昭和六三年法律第一〇九号改正前の法人税法(以下「昭和六三年改正前法人税法」という。)六六条二項の規定により、右所得金額のうち八〇〇万円を一二で除し、これに当該事業年度の月数五月を乗じて計算した金額(昭和六三年改正前法人税法六六条四項)三三三万三〇〇〇円(国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数切捨て)については一〇〇分の三〇の税率を、昭和六三年改正前の法人税法六六条一項の規定により残額の八三九五万円(国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数切捨て)については一〇〇分の四二の税率を、それぞれ乗じて計算した金額である。

(2) 土地譲渡利益金額に対する税額 二五七四万九三〇〇円

原告が本件事業年度において譲渡した土地は、別表二のとおり、いずれも取得をした日の翌日から譲渡をした日の属する年の一月一日までの期間が二年以下であるか、又は、譲渡等した日の属する年において取得しており超短期所有土地等に該当する。したがって、土地の譲渡代金部分については、その譲渡利益金額の一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した金額が法人税の額に加算されることとなる(平成元年法律第一二号による改正前の租税特別措置法(以下「平成元年改正前措置法」という。)六三条の二)。

原告の本件事業年度の課税譲渡利益金額は、前記三3(二)のとおり八五八三万一七三六円であるので、平成元年改正前措置法六三条の二の規定により、法人税額に加算すべき金額は、右金額から国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切捨てた金額である八五八三万一〇〇〇円に一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した金額となる。

(四) 原告の本件事業年度の所得金額、土地譲渡利益金額及び納付すべき法人税額は、前記3(一)、(二)、(三)の金額のとおりであるが、右各金額は、本件更正処分に係る所得金額、土地譲渡利益金額及び納付すべき法人税額と同額であるから、本件更正処分は、適法である。

4  本件賦課決定処分の適法性

(一) 重加算税賦課決定処分について

(1) 重加算税の基礎となる税額 四七九一万円

本件更正処分による納付すべき金額のうち、本件土地売上計上漏れの六六五五万円に係る金額で、増差所得金額に対応する重加算税の基礎となる税額(別表三<6>)と増差譲渡利益に対する重加算税の基礎となる税額(別表三<12>)の合計金額(国税通則法一一八条三項の規定に基づき一万円未満の端数切り捨てた後のもの。別表三<17>)である。

(2) 重加算税の金額 一六七六万八五〇〇円

国税通則法六八条一項の定めるところにより、三4(一)(1)の金額に一〇〇分の三五の割合を乗じて算出したものである(別表三<19>)。

(3) 原告は、共立堂に対し売却した本件土地譲渡金額として益金に算入すべき金額を、土地の譲渡等がある場合の特別税率を免れる目的で建物売買契約に係る金額と仮装した上で、右仮装行為に基づき本件事業年度の申告書を作成した。右行為は、国税通則法六八条一項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。そして、本件賦課決定に係る重加算税額は、三5(一)(2)のとおりであるが、右金額は、被告が本件賦課決定処分において認定した原告の重加算税の金額と同額であるから、右重加算税賦課決定処分は、適法である。

(二) 過少申告加算税の金額

(1) 過少申告加算税の基礎となる税額 四四万円

本件更正処分による納付すべき金額のうち、国税通則法六八条一項括弧書き及び同法施行令二八条一項の規定に基づき、超短期所有土地等の譲渡に係る増差税額(別表三<15>)から重加算税の基礎となる税額(別表三<12>)を除いた金額(ただし、国税通則法一一八条三項の規定に基づき一万円未満の端数切り捨て後のもの。別表三<20>)である。

(2) 過少申告加算税の金額 四万四〇〇〇円

国税通則法六五条一項の定めるところにより、三4(二)(1)の金額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出したものである。

(3) 仮装隠ぺい行為でない事実のみに基づいて算出した本件賦課決定に係る過少申告加算税は、三4(二)(2)のとおりであるところ、右金額は、被告が本件賦課決定処分において認定した原告の過少申告加算税の金額と同額であるから、右過少申告加算税賦課決定処分は、適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1は、認める。

2  同2は、否認する。

3(一)  同三3(一)のうち(1)は認め、その余は、否認する。

(二)  同三3(二)のうち(1)b、c、(2)は、認め、その余は、争う。

(三)  同三3(三)、(四)は、争う。

4  同4は、争う。

五  原告の反論

原告は、次に述べるとおり、木元鉄工との間で、本件建物の建築につき請負契約を締結した上で、共立堂に対し、右建築にかかる本件建物を本件土地と併せて売却したのであるから、原告共立堂間において本件建物の売買が現実に行われており、本件金員六六五五万円は、本件土地代金の一部ではなく、本件建物の代金の一部である。

1  原告は、昭和六三年五月ころ、清水胤正らから現況が畑である本件土地を取得して、これを八区画に分け、建売住宅として分譲して、一棟当たり八〇〇万円から九〇〇万円程度(全体で六四〇〇万円から七二〇〇万円程度)の利益を得ようと計画していたところ、ヤマサ商事の取引主任志村弘(以下「ヤマサ商事取引主任者志村」という。)から、共立堂が倉庫用地として本件土地の購入を希望しているとの情報を入手したため、原告は、本件土地を売却すべく共立堂の代表社員中込芳枝、共立食品工業の代表取締役津村周伝(以下「津村」という。)及び専務取締役清水弘と交渉を重ねたが、保有期間が短い本件土地に六四〇〇万円から七二〇〇万円程度の利益を上乗せして譲渡することは、国土法の規制があり不可能であり、原告も、これまで土地のみの販売は行わず、すべて建物付きで土地を販売してきたことから、原告は、本件土地についても原告が共立堂の望む倉庫(本件建物)を建築し、これを本件土地と併せて共立堂に売却することによってその利益を確保することとし、共立堂もこれに合意した。

そこで、原告は、共立堂との右合意に基づき、共立堂との間で本件土地売買契約書及び本件建物売買契約書を交わし、また、木元鉄工との間で本件請負契約書を交わした。

2  原告は、当初、原告の取引先である坂本鉄工に本件建物の建築を発注しようと考えていたが、共立堂から内装工事を行うことより同社との取引のある木元鉄工に本件建物の建築を請け負わせてほしい旨の要望があったため、原告は、木元鉄工に対し本件建物の建築を発注した。原告は、本件建物を建築するにあたり、清水及び木元鉄工の専務木元正行と本件建物の形態、規模、材料等の大枠について打ち合わせをしたが、本件建物は、原告が建築した後、共立堂に売却されることになっていたことから、本件建物の具体的な仕様等に関する詳細な事項は、本件建物を使用する共立堂と建築を担当する木元鉄工との間で、直接打ち合わせて決めるのが適当であるため、右両者が具体的な仕様等に関する詳細な事項を決め、原告は、右取決めの内容について、木元鉄工から報告を受けるという形態で本件建物の建築に関与していた。

3  本件土地の売買契約書の売買代金二億九六七五万円は、国土法二三条一項の規定に基づく平成元年二月二三日付け不勧告通知書に記載された一平方メートル当たり二九万六五〇〇円を実測面積一〇〇〇・八五平方メートルに乗じた金額である。

また、本件建物の売買契約書の売買代金一億七〇二九万円は、原告が、当初、本件土地に八棟の建売住宅を建築して販売し、一棟当たり八〇〇万円から九〇〇万円の利益を見込んでいたところを基礎に計算した本件金員六六五五万円を原告の利益金額とし、これを請負代金一億〇三七四万円に加算した金額である。

4  なお、原告は、ヤマサ商事に対し、本件建物の売買について仲介手数料として二〇〇万円を支払った。

5  以上のとおりであるから、原告は、実際に木元鉄工と本件建物建築について請負契約を締結し、右建築に係る本件建物を本件土地と併せて共立堂に売却したものであり、原告が平成元年四月二〇日に共立堂から取得した金員は、本件土地の代金の残金と本件建物の代金の一部である六六五五万円(本件金員)であるから、本件金員が本件土地の代金の一部であるとの被告の主張は失当である。

六  原告の反論に対する認否

争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第一  請求原因1、2、被告の主張1の事実は当事者間に争いがない。

被告は、本件建物の注文者は共立堂であるから、原告が共立堂に本件建物を売却することはありえないにもかかわらず、原告は共立堂に対して本件土地を売却したことによって得た金員の一部(本件金員六六五五万円)を本件建物の売買代金の一部と仮装した上で申告書を提出したので、被告は原告に対し本件更正処分等を行った旨主張する。これに対し、原告は、本件建物は、原告が木元鉄工に注文して建築したのち、原告が共立堂に売却したものであるから、右六六五五万円は、本件建物の売買代金の一部であって本件土地の売買代金ではない旨主張する。したがって、本件の中心的争点は、本件建物の注文者が原告、共立堂のいずれか、ひいては、本件金員は本件土地売買代金の一部かどうかであるから、以下この点について判断する。

一  前記当事者間に争いのない事実のほか、本件証拠(甲第一ないし第一七号証、乙第一ないし第二〇号証、証人中村定治及び同津村周伝の各証言)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

1  原告は、不動産の売買、交換、賃借、管理及びその代理媒介を主たる業とする会社である。

原告は、昭和六三年五月ころ、清水胤正らから現況が畑である本件土地を取得して、本件土地を宅地に造成した後、中央に南北四メートルの道路を入れて有効宅地を八区画に分けて建物を建築して建売住宅として分譲し、一棟当たり八〇〇万円から九〇〇万円程度(全体で六四〇〇万円から七二〇〇万円程度)の利益を得ることを計画し、同月三〇日、譲受人を原告、譲渡人を清水胤正らとして草加市長に対し、本件土地を三億〇二四二万三九四〇円(一平方メートル当たり三〇万三〇三〇円)で売買することをその内容とする土地売買等届出書を提出した(甲第五号証)。しかし、右土地売買等届出書に対し草加市長より勧告がされたことから、清水胤正らは、本件土地を原告に売却することを取りやめた。

しかし、その後、原告は、本件土地の水路を隔てた南側の土地について、高額な売買価格に対しても不勧告通知がされたという情報を入手したことから、越谷土木事務所に対し、その理由を質したところ、越谷土木事務所は、原告に対し、対象土地が整地してあるかどうかの違いである旨回答した。そのころ、原告は、後述のとおり共立堂から本件土地を倉庫用地として購入したい旨の申出を受けていたことから、原告は、清水胤正らと協議し、本件土地に倉庫を建てることとして、農地法四条の自己使用として畑から宅地への農地転用手続を履践して、整地することとし、原告が、同年一〇月一日、株式会社文京不動産鑑定所に対し、本件土地を宅地化した場合の価格について鑑定を依頼したところ、鑑定の結果、本件土地の価格は、三億二九三四万円(一平方メートル当たり三三万円)とされた(甲第六号証)。また、清水胤正らは、同年一二月一六日、草加市農業委員会長に対し、本件土地について、貸倉庫を設置するため農地法第五条第一項第三号の規定による農地転用届出書を提出し、草加市農業委員会長は、右同日、右届出を受理し、同月二一日、清水胤正らに対し受理の通知をし(甲第一〇号証)、平成元年一月一三日、本件土地の造成工事が着工された。

原告は、同月三〇日清水胤正らとともに、埼玉県知事に対し、本件土地を三億二九三四万円(一平方メートル当たり三三万円)で売買する旨の土地売買等届出書を提出した(甲第七号証)が、売買の予定価格について勧告がされたため、同年二月一六日、埼玉県知事に対し、本件土地の価格を二億九五九〇万七〇〇〇円(一平方メートル当たり二九万六五〇〇円)とする旨の土地売買等変更届出書(甲第八号証)を提出し、また、右同日、再度、売買予定価格を変更した土地売買等届出書(甲第九号証)を提出した。その結果、埼玉県知事は、同月一七日、原告に対し、本件土地の売買について不勧告通知書を発行した(甲第一二号証)。

2  一方昭和六三年七月二八日、ヤマサ商事代表取締役指田廣司及びヤマサ商事取引主任者志村が、原告の事務所を訪れ、原告に対し、共立堂が倉庫用地として中根町で三〇〇坪程度の土地を探していること、購入の予算は、一坪当たり一二〇万円程度であることを告げた。しかし、土地を取得した後、二年以内の短期間に土地を転売した場合、地方税も含めて譲渡益の九二ないし九三パーセントにも及ぶ高額な課税を受けるため、原告自身これまで土地のみの転売はせず、建売住宅と併せて土地を分譲販売してきたものであったことから、本件土地のみを共立堂に売却することはできない旨返答した。

ヤマサ商事取引主任者志村は、その後の同年九月一日、再び原告事務所を訪れ、原告に対し共立堂が同年一一月から同年一二月までの間に本件土地を購入したいとの意向を持っていることを告げた。しかし、本件土地の価格については、当時の周辺の取引価格より一坪当たり一二〇万円程度が相場であるとされていたが、国土法の規制により一坪当たり一〇〇万円程度でなければ不勧告通知を受けることができないことから、原告及びヤマサ商事との間において、右差額をどのようにするかについて協議が行われた。共立堂は、本件土地が倉庫用地として適当であったことから、本件土地を是非とも購入したいと考えていた。そこで、原告とヤマサ商事との間での右協議の結果、原告が本件土地に本件建物を併せて売却したことにすれば、右差額は、本件建物の代金の名目で回収することができるとされたことから、共立堂は、支払う金額が同じで、本件土地と本件建物を取得できるのであれば、本件建物の建築費用相当額と本件土地の売買代金の一部である本件金員との合計額を本件建物の売買代金であることにして、これを原告に支払ってもよいと考え、右協議に合意し、その旨取り決められた(乙第二〇号証)。

ところで、共立堂は、平成元年四月から建物売買に消費税が課税されるため、それ以前に本件建物を購入したかったこと、及び、適当な物件を確保するため、本件土地及び本件建物の購入を急いでいた。しかし、本件土地には、都市再開発法に規定された準開発の手続が必要であったところ、清水胤正らによる右手続が遅れていた。そこで、原告と共立堂は、本件建物について、本件土地よりも先に売買契約を締結することとした。

3  まず、原告は、本件建物を共立堂に売却することの前提として、本件建物の建築の注文者として、本件建物建築の請負契約を締結する必要があったことから、原告は、共立堂の紹介する木元鉄工との間で、原告を注文者、木元鉄工を請負者として、本件建物を一億〇三七四万円で建築することをその内容とする昭和六三年一二月二八日付けの民間建設工事請負契約書(本件請負契約書)を交わした。本件請負契約書によれば、右請負代金は、契約成立時に一〇〇万円、昭和六四年五月二〇日に三四二五万円、同年七月三一日に三四二五万円、同年九月三〇日に三四二四万円を支払うこととされている(乙第二号証)が、本件請負契約書は、工期欄が空欄で、図面や仕様書も添附されていないものであった。

共立堂は、昭和六三年一二月二八日、木元鉄工に対し、本件建物の建築代金として手付金一〇〇万円を支払い、木元鉄工は、共立堂に対し、領収証を発行したが、後に宛名を原告とする領収証に差し替えられ、共立堂宛に作成された領収証は木元鉄工に対し返戻された。共立堂は、一〇〇万円の支払について、「木元鉄工に対する草加倉庫(本件建物)の内金一〇〇万円(建設仮勘定)」と経理処理した。

なお、原告は、通常は、建築業者として坂本鉄工を利用していたが、共立堂は、本件建物を共立食品工業に売却しようと考えていたことから、以前、共立食品工業の他の工場等を建築した木元鉄工に、本件建物についても設計、見積もり、建築を依頼することとし、原告は、共立堂から紹介された木元鉄工と本件請負契約書を交わしたものである。

木元鉄工は、本件建物の建築に関し、共立堂に対して、昭和六三年一二月付け(日付欄は空欄である。)の御見積書(以下「本件甲見積書」という。)を作成した。右見積書は、総括書のほか合計五四枚からなる詳細な内訳書からなっており、見積金額は一億四八二〇万円であった。津村は、共立堂と木元鉄工との間で、右見積金額で、本件建物の建築の合意がされていたことから、右金額から既に支払った金額一億〇三七四万円を差し引いた残金四四二五万円の請求分を同年三月三一日支払期日の手形で支払うということを意味するメモ(乙第二〇号証)として、右見積書の表紙に「この分の差額 あらためて請求来ます 3/31手形払 この分63/12月ですので消費税は入っていません」と記載した(乙第一四号証)。なお、右残金については、木元鉄工は、平成元年一一月三〇日、共立食品工業に対し、本件建物の設備及び雑工事費として四四二五万円を請求する旨の請求書を発行している(乙第一六号証)が、右差額の請求について原告は何ら関知していなかった。

もっとも、木元鉄工は、原告に対しても、本件甲見積書とは別に、本件建物について見積金額を一億七〇二九万円とする昭和六三年一二月二五日付けの御見積書(以下「本件乙見積書」という。)を作成しているが、本件乙見積書には、総括書はなく、また内訳書も合計五枚であり、共立堂に対する見積書よりも簡単な内容になっており、木元鉄工の押印もされていない(乙第一五号証)。

4  次に、原告と共立堂は、原告を売主、共立堂を買主として、本件建物を一億七〇二九万円で譲渡することをその内容とする昭和六三年一二月二八日付けの建物売買契約書(本件建物売買契約書)を交わした。本件建物売買契約書には、右同日に手付金一〇〇万円、昭和六四年四月二〇日に中間金六六五五万円、同年五月二〇日に中間金三四二五万円、同年七月三一日に中間金三四二五万円、同年九月三〇日に残金三四二四万円を支払うこととされて、ヤマサ商事が仲介人である旨記載されている(乙第三号証)。

5  その後の同年二月一七日、清水胤正らから原告に対する本件土地の売買について、埼玉県知事から原告に対し不勧告通知がされたことから、原告と共立堂は、同月二一日付けで、埼玉県知事に対し、原告を譲渡人、共立堂を譲受人として、本件土地を二億九五九〇万七〇〇〇円(一平方メートル当たり二九万六五〇〇円)で売買する旨の土地売買等届出書を提出し(甲第一四号証)、同月二三日、埼玉県知事は、原告に対し、本件土地の売買について不勧告通知を発行した(甲第一五号証、乙第五号証)。また、原告と共立堂は、原告を売主、共立堂を買主として、本件土地を二億九六七五万円で譲渡することをその内容とする同月二八日付けの土地売買契約書(本件土地売買契約書)を交わした。本件土地売買契約書には、右同日手付金として一〇〇〇万円、同年四月二〇日に二億八六七五万円を支払うこととされ、またヤマサ商事及び芙正エステート有限会社が仲介業者である旨記載されている(乙第四号証)。

共立堂は、同年二月二八日、原告に対し、本件土地の代金の一部として一〇〇〇万円支払い、原告は、共立堂に対し、領収証を発行したが、右領収証の裏には、「総額363,300,000 手ス10,899,000 1000,85(302,75坪)」と記載されたメモが添付されていた(乙第一二号証)。

6  共立堂とヤマサ商事との間で、物件の表示に「草加市中根町字宮沼三二九番 宅地実測一〇〇〇・八五平方メートル 建物 倉庫二階建三六〇坪」と記載され、右物件の仲介手数料一〇八九万九〇〇〇円を土地代金決済時に全額支払うとする旨記載された同年二月二八日付け仲介手数料契約書が交わされた(乙第一三号証)。

ヤマサ商事は、同年四月二四日、原告に対し、草加市中根町字宮沼三二九倉庫一、一五五平方メートル、売買仲介手数料を一九四万一七四八円、消費税五万八二五二円、領収金額二〇〇万円と記載された領収証を発行した(甲第一一号証)。

7  共立堂は、本件建物を建築するにあたり地鎮祭を主催し(甲第一号証)、同年四月二七日、草加市役所に対し、本件建物に係る建築確認申請書の費用五万二〇〇〇円を支払い、建築確認申請を行い、同年五月一六日、草加市長に対し、本件建物を倉庫として使用するにあたっての倉庫確約書を提出した(乙第一七号証)。建築主事は、同年六月二一日、共立堂を本件建物の建築主として、本件建物についての建築確認検査済証を発行し(乙第一〇号証)、翌二二日、本件建物の建築工事に着工した(乙第一九号証)。また、共立堂は、同年一〇月二四日、草加市消防長に対し、本件建物について防火対象物使用開始届出書を提出し(乙第一八号証)、同月二六日、本件建物の竣工式が行われた。共立堂は、平成元年一一月二日、本件建物について、越谷土木事務所に対し、平成元年一〇月三一日付けで報告を求められた件について報告書を提出した(乙第一九号証)。

8  共立堂と共立食品工業とは、同月二日付けで、「1、合資会社共立堂が埼玉県草加市中根町宮沼に建設中の建物に付き合資会社共立堂はその完成を共立食品工業株式会社に委譲する。代金はこれ迄の工事金の実額を共立食品工業株式会社は合資会社共立堂へ支払うものとする。2、上記建築及び土地の資金として三菱銀行より借入代金に対する利息のうち共立食品工業株式会社が合資会社共立堂へ代金完了迄は共立食品工業株式会社が利息を負担する。」と記載されている同意書(本件同意書)を取り交わし(乙第六号証)、また、右同日付けで、共立堂が共立食品工業に対し本件土地を二億九六七五万円で売却することをその内容とする土地売買契約書を取り交わした(乙第七号証)。その後、共立食品工業は、平成二年六月一一日受付で本件建物について保存登記をした(乙第一一号証)。

9  原告は、平成元年七月二四日、被告に対し、同年二月二二日に本件土地を三億〇三五五万七〇〇〇円(仕入二億九五九〇万七〇〇〇円、造成七六五万円の合計)で購入し、同年四月二〇日、二億九六七五万円を譲渡したとして確定申告した。また、右同日、原告が共立堂から取得した本件金員は、前受金として経理処理された(乙第一号証)。なお、本件事業年度に原告が行った土地の譲渡状況は、別表二に記載のとおりである。

二  前記認定した事実によると、原告が木元鉄工との間において、本件建物の建築について請負契約を締結する旨の本件請負契約書、共立堂に対し本件建物を売却する旨の本件建物売買契約書、ヤマサ商事が原告から本件建物の売買に係る仲介手数料を受領した旨の領収証、共立堂がヤマサ商事に対し本件土地建物の売買の仲介について仲介手数料を支払う旨の本件仲介手数料契約書がそれぞれ存在することが認められる。

しかしながら、原告は、当初、本件土地を一坪当たり一二〇万円程度で売却する計画を立てていたが、一坪当たり一〇〇万円を超える価格による土地売買に対しては、国土法による勧告がされることから、本件土地の売買に際して、少なくとも売買契約書においては、本件土地の価格を一坪当たり一〇〇万円程度に定める必要があったこと、原告が本件請負契約書を取交わした相手方である木元鉄工は、共立堂が指定した建築業者であること、木元鉄工は、原告に対して本件乙見積書を発行したが、これとは別に共立堂に対しても本件建物の見積書(本件甲見積書)を発行し、右見積書は、総括書とともに各工事別の内訳書が五四枚添付され、詳細なものとなっていること、これに対し、本件乙見積書は、内訳書が五枚添付されているのみで、内容も本件甲見積書より簡略であり、木元鉄工の押印もされていないこと、共立食品工業の代表取締役である津村は、木元鉄工が共立堂に対し本件建物の建築代金の残金について、改めて請求する趣旨で、本件甲見積書の表紙に「この分あらためて請求します」と書き込みをしていること、共立堂は、昭和六三年一二月二八日、木元鉄工に対し、直接、本件建物の建築に係る手付金一〇〇万円を支払い、木元鉄工は、共立堂に対し、同人を名宛人とする領収証を発行したこと、共立堂は、右手数料一〇〇万円の支払について「木元鉄工に対する草加倉庫(本件建物)の内金一〇〇万円(建設仮勘定)」と経理処理したこと、右手付金を除く本件建物の建築代金は、共立堂が原告に渡した金員によって支払われていること、木元鉄工は、本件請負契約書記載の建築代金一億〇三七四万円のほか、共立食品工業に対し、本件建物の「整備及び雑工事費」として、本件甲見積書との差額にほぼ匹敵する四四二五万円(以下「本件差額」という。)を請求する旨の請求書を発行し、共立食品工業は、同年一二月二〇日、これを木元鉄工に対し支払ったが、原告は、本件差額の請求書に関して、国税不服審判所において、原告は、右差額について本件建物の注文者であれば当然関知しているはずなのに、関知していない旨弁明していること、本件建物の所有権保存登記は、原告によってではなく、平成二年六月一一日受付で、共立食品工業を所有者としてされていること、共立堂は、本件建物を建築するに当たり建築主として地鎮祭を取り行った上、同年四月二七日、本件建物に係る建築確認申請書の費用を五万二〇〇〇円支払って、草加市役所に対し、建築確認申請を行い、同年五月一六日には、草加市長に対し、倉庫確約書を提出していること、建築主事は、同年六月二一日、共立堂を建築主として建築確認検査済証を発行したこと、共立堂は、同年一〇月二四日、草加市消防本部に対し、本件建物について防火対象物使用開始届出書を提出し、同年一一月二日、本件建物について越谷土木事務所に対し、報告書を提出する等し、これら公的機関に提出する届出書等は、いずれも共立堂によってされていること、共立堂は、本件土地建物を共立食品工業に譲渡するに際し、平成元年一〇月二日付け同意書(本件同意書)を作成したが、本件同意書によれば、共立堂は、共立堂が建設中の本件建物につき、本件建物の完成を共立食品工業に委譲し、共立食品工業は、本件建物の売買代金として、共立堂がこれまで本件建物の工事に費やした実額を支払い、さらに共立堂は、本件建物の建築と土地取得の資金として三菱銀行から借入をしていたことがうかがえること、本件建物売買契約書によると、共立堂は、本件建物の建築確認の申請や工事の着工がされていない段階である平成元年四月二〇日に、原告に対し、本件建物の代金とされる金額の約四割に当たる本件金員六六五五万円を支払っているが、共立堂は原告に対し何ら担保的な措置を講じていないこと、共立堂が平成元年二月二八日に原告に対して支払った本件土地の手付金一〇〇〇万円の領収書の裏面に「総額366,300,000」「手ス10,899,000」「1000・85(302・75坪)」と記載されたメモが添付されているが、右メモの「総額363,300,000」は、本件土地の売買契約書記載の金額に本件金員六六五五万円を加算した金額と一致し、「1000・85(302・75坪)」との記載は、本件土地の実測による地積と一致すること、本件仲介手数料契約書には、仲介手数料を一〇九八万九〇〇〇円とする旨記載されているところ、原告主張のとおり本件土地代金を二億九六七五万円、本件建物代金を一億七〇二九万円とすると、仲介手数料の金額は、本件土地建物の売買代金金額の約二・三パーセントという半端な金額になるのに対し、本件土地代金を三億六三三〇万円とすると、仲介手数料の金額は、本件土地の売買金額の三パーセントととなることがそれぞれ認められる。右のとおり、共立堂が本件建物の建築代金の一部である手付金一〇〇万円を直接木元鉄工に支払っていること、その他の建築代金の残額もすべて共立堂が原告に渡した金銭で支払われていること、本件甲見積書の内容が本件乙見積書よりも詳細であること、本件甲見積書の表紙に記載されたメモ書きから、本件建物の建築代金の残額の請求が木元鉄工から共立堂に対してされることがうかがえること、原告が本件差額について何ら関知していないのは不自然であること、本件建物の建築に関する公的機関に対する届出書はいずれも共立堂が建築主として手続していること、本件建物の所有権保存登記が共立食品工業によってされていること、本件同意書の記載内容からすると、本件建物は共立堂が建設していることがうかがえること、本件金員が本件建物の建築確認及び着工前に支払われていることからすると、本件建物の注文者は共立堂であると認めるのが相当である。また、本件土地の売買代金の手付金として共立堂が原告に支払った一〇〇〇万円の領収書の裏面に添附されたメモの内容、共立堂がヤマサに対して支払った本件土地の仲介手数料が本件土地の売買代金を三億六三三〇万円とした場合、右価格に宅地建物取引業法四六条一項に規定する仲介に係る報酬割合(三パーセント)を乗じた額と一致することからすると、本件土地の売買価格は三億六三三〇万円である認められる。

したがって、原告は、当初、本件土地を売却することによって六四〇〇万円から七二〇〇万円程度の利益を得ようと計画していたことから、本件土地を一坪当たり約一二〇万円程度で売却しようとしたが、右売買価格では、国土法上の勧告を受けるので、本件土地の本来の売買代金の一部を本件建物の売買代金の名目で取得することによって、本件土地の売買代金を一坪当たり一〇〇万円程度であると仮装して右勧告を回避することとし、実際は、原告が、共立堂に対し、本件土地を三億六三三〇万円で売却し、共立堂が木元鉄工に本件建物の建築を請け負わせ、共立堂が本件土地建物を併せて共立食品工業に売却したものであるのに、原告が木元鉄工に本件建物の建築を請け負わせ、その後、共立堂に本件土地を二億九六七五万円、本件建物を一億七〇二九万円として売却し、本来の本件土地の売買代金三億六三三〇万円と本件土地売買契約書記載の売買代金二億九六七五万円との差額である六六五五万円を本件建物の売買代金の名目で、共立堂から平成元年四月二〇日までに支払を受けたものであることが認められる。

三  これに対し、原告は、本件請負契約書において注文者は原告とされていること、本件建物売買契約書が存すること、本件仲介手数料契約書の取引対象が本件土地建物となっていること、本件建物の売買に対する仲介手数料の領収書が存在することから、本件建物の注文者は原告であり、原告が本件土地建物を共立堂に売却した旨主張し、共立堂が木元鉄工に対して本件建物の請負代金の手付金として一〇〇万円を支払ったのは、原告と共立堂との間における合意に基づくものであり、その他の請負代金は、原告が支払っていること、原告が木元鉄工に支払うべき金額は、本件請負契約書に記載された請負代金額であるから、その完済後に共立食品工業から木元鉄工に支払われたという本件差額について原告が関知していなかったとしても何ら不自然な点はないこと、建売住宅の場合、建物の買主が保存登記の所有名義人とすることは、まま見受けられ、公的届出等の諸手続も、不動産業者がこれらの手続をした場合、厳しい規制がされる可能性があったことからこれを回避すべく共立堂にこれらの手続をしてもらったものであること、本件同意書の文言が不明確かつ非法律的表現であることを考慮すると、これをもって本件建物の注文者が共立堂であるとすることはできないこと、本件建物の売買代金は、原告と共立堂間の合意に基づくものであるし、違約の場合は、契約解除権・売買代金の二割相当額の違約金を直ちに支払う旨の約定があるので、買主にとっても契約履行の保全は十分されていたこと、宅地建物取引業法に規定する仲介に係る報酬割合は、上限を規定したものにすぎないから、それを下回る報酬割合であれば、どのような割合でもよいことから、原告と木元鉄工間の本件建物の建築請負契約、原告と共立堂間の本件建物の売買契約には、何ら不自然な点はない旨、右主張に沿う供述をする。

しかし、前記認定した事実に照らすと、本件請負契約書自体、図面及び仕様書の添附がなく、工期欄も空欄の不完全なものである上、本件建物売買契約書の作成時期及び本件建物の売買について原告がヤマサ商事に仲介手数料を支払ったとされる時期が本件建物の建築の建築確認申請及び工事の着工前であることなど不自然な点がうかがえ、これら契約書及び右領収証等が現実の取引をそのまま反映した内容となっているとは思われないし、本件建物の建築について手付金一〇〇万円を共立堂が木元鉄工に立替払をしたことについて、その具体的な事情が明らかにされてなく、右立替払の合意が原告と共立堂間にあったことを裏付ける証拠も原告代表者の供述以外には存在しない。また、前記認定した事実によると、原告は、本件土地を当初一平方メートルあたり約一二〇万円で売却し、六四〇〇万円から七二〇〇万円までの利益を得ようと計画していたところ、右価格では国土法上の勧告がされ、また、土地を取得した後、二年以内の短期間に土地を転売した場合、地方税も含めて譲渡益の九二ないし九三パーセントの高額な課税を受けるので、これを回避するため、原告はヤマサ商事と協議の上、原告が本件建物を木元鉄工に建築を請け負わせ、本件土地の売買代金のうち一部を本件建物の売買代金の一部として、共立堂に対し、本件土地と本件建物を併せて売却したことにすれば、国土法による勧告及び高額な課税を免れることができると考え、これを共立堂に持ちかけて共立堂と合意するに至ったのであるから、架空の取引に関して、原告、共立堂及びヤマサ商事等を当事者とする本件請負契約書、本件建物売買契約書、本件仲介手数料契約書及び右手数料支払いに係る領収証等が存在するのは当然であり、その他、右各契約書や領収証以外に原告が本件建物の建築の注文者であることを証明する証拠が存在しないことからすると、右契約書や領収書等があるからといって、原告の主張をそのまま認めることはできず、本件建物の建築の注文者は、原告ではなく、共立堂であるといわざるを得ない。

したがって、本件請負契約書、本件建物売買契約書、本件仲介手数料契約書及び右手数料の支払に係る領収証は、原告が本件建物の建築の注文者であるかの外形を作出するために作成された実体の伴わない契約書であると認めるのが相当であるから、これに基づく原告の主張は、理由がない。

第二本件更正処分等の適法性

原告が本件土地を三億六三三〇万円で購入したことを前提に、本件更正処分等の適法性について検討する。

一  本件更正処分の適法性

1  本件事業年度の所得金額

原告の本件事業年度の所得金額は、原告の申告に係る所得金額二〇七三万三五七五円と、土地売上計上漏れの本件金員六六五五万円との合計である八七二八万三五七五円である。

2  本件事業年度の土地譲渡利益金額

原告の本件事業年度の土地譲渡利益金額は、本件土地の譲渡に係る収益の額三億六三三〇万円から本件土地の譲渡に係る原価三億〇三三五万七〇〇〇円及び本件土地の譲渡のために直接又は間接に要した経費の額九九三万二二五六円を控除した四九八一万〇七七四円と、本件土地以外の土地に係る譲渡利益金額三六〇二万〇九九二円との合計である八五八三万一七六六円である。

3  納付すべき法人税額 六一二三万九九〇〇円

原告の納付すべき法人税額は、所得金額に対する税額三六二五万八九〇〇円、すなわち、昭和六三年改正前法人税法六六条二項の規定により、所得金額のうち八〇〇万円を一二で除し、これに当該事業年度の月数五月を乗じて計算した金額(昭和六三年改正前法人税法六六条四項)三三三万三〇〇〇円(国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数切捨て)については一〇〇分の三〇の税率を、昭和六三年改正前の法人税法六六条一項の規定により、残額の八三九五万円(国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数切捨て)については一〇〇分の四二の税率を乗じて計算した金額と、土地譲渡利益金額に対する税額二五七四万九三〇〇円、すなわち、原告が本件事業年度において、譲渡した土地は、いずれも取得した日の翌日から譲渡した日の属する年の一月一日までの期間が二年以内であるか、又は、譲渡した日の属する年において取得しており、超短期所有土地等に該当するところ、原告の本件事業年度の課税譲渡利益金額は、八五八三万一七三六円であるから、平成元年改正前措置法六三条の二の規定により、法人税額に加算すべき金額は、右金額から国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切捨てた金額である八五八三万一〇〇〇円に一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した金額(平成元年改正前措置法六三条の二)の合計額から、利子等の収入について既に源泉徴収されていた税額七六万八二四四円を控除した金額六一二三万九九〇〇円(国税通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数切捨て)である。

4  原告の本件事業年度の所得金額、土地譲渡利益金額及び納付すべき法人税額は、第二の一1、2、3の金額のとおりであるが、右各金額は、本件更正処分に係る所得金額、土地譲渡利益金額及び納付すべき法人税額と同額であるから、本件更正処分は、適法である。

二  本件賦課決定処分

1  重加算税賦課決定処分の適法性

(一) 前記認定した事実によると、原告は、共立堂に対し、本件土地を三億六三三〇万円で売却したにもかかわらず、右代金のうち六六五五万円を本件建物の売買代金であるかのように仮装した上で、右仮装行為に基づいて、本件事業年度の申告書を作成して、これを提出したことが認められるので、国税通則法六八条一項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。

(二) 原告に対する重加算税の金額は、本件更正処分による納付すべき金額のうち、本件土地売上計上漏れの六六五五万円に係る金額で、増差所得金額に対応する重加算税の基礎となる税額(別表三<6>)と増差譲渡利益に対する重加算税の基礎となる税額(別表三<12>)の合計金額四七九一万円(国税通則法一一八条三項の規定に基づき一万円未来の端数切り捨てた後のもの。)(別表三<17>)に国税通則法六八条一項の定めるところにより一〇〇分の三五の割合を乗じて算出した金額一六七六万八五〇〇円(別表三<19>)であるところ、右金額は、被告が本件賦課決定処分において認定した原告の重加算税の金額と同額であるから、右重加算税賦課決定処分は、適法である。

2  過少申告加算税の適法性

仮装、隠ぺい行為でない事実のみに基づいて算出した本件賦課決定に係る過少申告加算税は、本件更正処分による納付すべき金額のうち、国税通則法六八条一項括弧書き及び同法施行令二八条一項の規定に基づき、超短期所有土地等の譲渡に係る増差税額(別表三<15>)から重加算税の基礎となる税額(別表三<12>)を除いた金額四四万円(ただし、国税通則法一一八条三項の規定に基づき一万円未満の端数切り捨て後のもの。別表三<20>)に、国税通則法六五条一項の定めるところにより一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した金額四万四〇〇〇円であるところ、右金額は、被告が本件賦課決定処分において認定した原告の過少申告加算税の金額と同額であるから、右過少申告加算税賦課決定処分は、適法である。

第三  右のとおりであるから、原告の本訴主張は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年一二月一四日)

(裁判長裁判官 星野雅紀 裁判官 小島浩 裁判官 檜山麻子)

(別紙) 物件目録

所在 草加市中根町字宮沼

地番 三二九番

地目 田

地積 九九八平方メートル

別表一

本件更正処分等の経緯(昭和六四年一月一日から平成元年五月三一日までの事業年度)

<省略>

別表二

土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の計算

<省略>

別表三

平成元年5月期の法人税に係る重加算税及び過少申告加算税の計算過程

<省略>

<省略>

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